小児から若年成人にかけて発症する骨軟部組織原発の悪性腫瘍であるユーイング肉腫(Ewing's Sarcoma: ES)は、小円形細胞腫瘍群(small round cell tumors)に属する。小児期に好発する神経芽腫、横紋筋肉腫、悪性リンパ腫などの固形腫瘍の多くが小円形細胞腫瘍群に属するため、それらの疾患との鑑別が重要となる。またES、未分化神経外胚葉性腫瘍(Primitive Neuroectodermal Tumor: PENT)Askin腫瘍は神経分化への特徴を有し、特異的な染色体の相互転座t (11; 22) (q24; q12)が共通して認められることなどの類似点が知られている。

 染色体の相互転座はESおよびそのファミリー腫瘍において約80%の症例で起きており、この相互転座によって新たに合成されるタンパク質がESの発生原因ではないかと報告されている。また、ESでの腫瘍性の細胞増殖は、EWS (22q12)FLI1 (11q24)の転座によりFLI1N末端部分がつかさどっていた転写制御活性が失われるのが原因ではないかと考えられている。そこで、融合遺伝子(EWS-FLI1)messenger RNA(mRNA)を検出することによって、ESおよびそのファミリー腫瘍の分子生物学的診断が可能となる。しかしながら、現在では、EWS-FLI1だけでなく、EWS-ERGEWS-ETV1EWS-FEVEWS-E1AFなどの融合遺伝子も見出され、転座を起こす遺伝子がEWSFLI1遺伝子だけでないことも分かってきている。さらに、同一遺伝子間の融合遺伝子であっても、遺伝子同士の転座を起こしているexonも多岐にわたって存在し、ESに認められるキメラタンパク質の約50%はEWSexon 1〜7FLI1exon 6〜9とによる融合遺伝子によってコードされていることが報告されている

 そこで、ESおよびそのファミリー腫瘍の生検微量検体から抽出したtotal RNAを用いて、多様な融合遺伝子の転座部位をReverse Transcription Polymerase Chain Reaction (RT-PCR)で増幅することにより、既知の融合遺伝子発現の有無の確認を行って早期診断に結び付け、さらに、より多くの融合遺伝子の一括測定をすることによって、より効率的にESファミリー腫瘍の分子生物学的診断が可能となる。

転座部位
Ewing's肉腫における遺伝子転座の検索とその臨床応用