VK誘導体
細胞膜でのシグナル伝達
 小児悪性腫瘍の神経芽腫(neuroblastoma: NB)は、神経成長因子(nerve growth factor: NGF)受容体(trk-A)においてNGF-trkAによる細胞内シグナル伝達系に異常が起きており、この伝達が腫瘍の悪性化や予後に深く関与している。一方、thioetherを有するvitamin K3 (VK3)誘導体は、リン酸化を分解する酵素であるprotein-tyrosine phosphatase (PTPase)を阻害して、上皮増殖因子(epidermal growth factor: EGF)受容体においてリン酸化の維持・持続に関与することが報告されている。しかしながら、vitamin K1 (VK1)ではPTPase阻害活性が低く、VK3は酸化的DNA損傷により発がん性が危惧されている。
 そこで我々はまず、
EGF受容体でPTPase阻害作用のあるvitamin K (VK)およびその誘導体についてNGF受容体においてもPTPase阻害作用があるかを検索した。細胞内でリン酸化を行う酵素であるtyrosine kinaseの活性の持続は、受容体からのシグナルを持続的に細胞内へ伝達し、mitogen-activated protein kinase (MAPK) cascadesの下流に存在する初期発現遺伝子群(c-fosなど)や後期発現遺伝子に伝えられ、細胞のぶんかが誘導される。そのためVKおよびその誘導体により、悪性度の高いNBの細胞を分化して、良性の細胞に変化出来るかを分子生物学的な手法によりc-fos遺伝子の発現をもとに検討した。
 さらに、我々は
DNA損傷などの副作用が認められず、既知の化合物よりもtyrosine kinaseを活性維持させることの出来る化合物を目的として、VK誘導化合物のデザインを行い、その合成を試みた。
PTPase阻害剤による小児悪性腫瘍への応用